前回書いた「ゼロから学ぶ財務諸表①」では、企業の状態をお金に関わる数値でみる財務諸表の全体像についてまとめました。
2回目となる今回は、財務3表の中では比較的わかりやすく、利用頻度も多い「損益計算書」を取り上げたいと思います。 会社版の家計簿のようなもの、と前回説明した損益計算書について、会社を分析するプロフェッショナルである新聞記者(経済)や投資家がどういう風に使っているのかを解説しつつ、具体的な分析の仕方の一部をご紹介したいと思います。
■会社分析のプロが「損益計算書」をみる理由
僕は、新聞社の経済部に在籍していたころ、会社が発表した決算の記事を書いていました。
株式を上場している会社は、1年間の経営成績を取りまとめると、「今年の業績は好調で、これくらい利益出ました!!」と発表します。
発表と言っても、記者を集めて会見を開くようなケースもあれば、しれっとウェブサイトに資料を掲載しているだけのケースなど会社によりけりでしたが。
記者をやめた後は、決算を発表する会社に対して、「投資家に対してはこうやってアピールしたほうがいいですよ」とアドバイスする仕事をしていました。
アドバイスの質を高めるため、実際にさまざまなプロの投資家(企業アナリスト)にどのように会社の数値を分析しているのかをヒアリングしていたので、プロの目線は熟知しています。
記者が財務諸表をみる目的は読者が「おっ」と思うインパクトのあるニュースを書くことにあるので、前年から大きく変化したというのがポイントになります。
だから、財務諸表の中で前年との違いが示された資料損益計算書をメインに分析することになります。
また、投資家はしっかりと事業で稼いでその分を株主に還元してくれそうな会社をみるのが目的です。
両者は目的が違うため、書類の見方が異なります。
ただ、本業のビジネスで儲けがどのように生まれているのかを知りたい点においては両者に違いはありません。
■「儲けの構造」を把握する
繰り返しになりますが、損益計算書とは、「儲けがどのように生まれているか」、つまり儲けの構造(仕組み)をチェックするのに適した書類です。
儲けとは、商品やサービスの販売などで入ってくるお金から、出ていくお金を差し引いたいわゆる利益です。
ただ、自分で土地を耕して野菜などをつくる農家とラーメン屋などの飲食店とでは、儲け方が全然違いますし、同じラーメン屋さんでも「オレの店は味で勝負!」というお店と「私の店は接客を含めてナンバーワンよ」というお店とではやはり儲けの出方が違っていきます。
この違いは損益計算書の数字に表れてきます。
味で勝負のラーメン屋さんと総合力勝負のラーメン屋さんとを比較した架空の書類で具体的にたとえますね。
ラーメンの味でとことん勝負しようとした場合、まずは麺や肉、野菜などの素材にこだわるところから始めるでしょう。
また、素材の良さを引き出すため、チャーシューを美味しく加工できる最新鋭の機械も取り入れたとします。
一方、接客を含めてナンバーワンを自負するお店は、愛想がよく会話もうまい従業員を雇ったり、お店を宣伝する広告費をふんだんに使って、お客をたくさん集める考えを持っているとします。
もし同じような規模だった場合、前者をA店、後者をB店として損益計算書を示してみます。
A店 | B店 | |
売上高(A) | 1000万円 | 1000万円 |
(売上)原価(B) | 800万円 | 500万円 |
粗利益(A-B) | 200万円 | 500万円 |
販売費・一般管理費(C) | 100万円 | 350万円 |
営業利益(A-B-C) | 100万円 | 150万円 |
A店の素材のこだわりは、「(売上)原価」に現れています。ちょっと大げさな違いを敢えて出しました。
B店が500万円なのに対して、800万円かけています。
また、B店は接客の良い人を高い時給で集めたり、広告をバンバン出してたりしているため、「販売費・一般管理費」の中に隠れている人件費や広告宣伝費が膨らみ350万円となっています。
利益で比較するとA店が100万円で、B店が150万円でパッと見た感じではB店のほうが優れているように見えます。 A店は最新鋭の機械を導入していると書きました。
機械の導入など設備にお金をかけている場合、何年かに分けて徐々に投資額を償却することになります。
もし、500万円の機械を5年間かけて償却する場合、5年目までは100万円の減価償却費を計上して、6年目からその費用が計上されなくなります。
この減価償却費というのは、「(売上)原価」や「販売費・一般管理費」に入り、今回はラーメンをつくるための設備なのでA店の原価800万円のうち、減価償却費100万円が隠れていて、それは6年目から消えます。
つまり、先に示した例が5年目であれば、来年の損益計算書は、A店 売上高 1000万円 (売上)原価 700(800-100)万円 粗利益 300万円 ~~ 販売費・一般管理費 100万円 営業利益 200万円 となることが予想されます。
A店 | |
売上高(A) | 1000万円 |
(売上)原価(B) | 700(800-100)万円 |
粗利益(A-B) | 300万円 |
販売費・一般管理費(C) | 100万円 |
営業利益(A-B-C) | 200万円 |
こうなると、B店よりも儲けが大きくなります。 分かりやすくデフォルメしてお伝えしていますが、会社のビジネスの特徴は損益計算書の中でカテゴリー分けされている項目の中に隠れているのです。
■何かで割った“比率”で分析する
前のパラグラフでは、A店とB店も売上高が1000万円であることを前提としていたため、比較ができました。
実際には、同じ業種であっても、片方が1000万円、もう一方が2500万円だったり、と同じであることは滅多にありません。
そこで登場するのが割り算を使った「比率」です。
先ほどのラーメン店の例で言えば、 原価 ÷ 売上高 販売費・一般管理費 ÷ 売上高 営業利益 ÷ 売上高 といった感じです。 1つ目の「原価 ÷ 売上高」は、売上高全体のうち原価が占める比率を意味し、一般的に原価率と呼ばれます。
A店なら800万円(原価)÷1000万円(売上高)で0.8、つまり売上高の中で、材料などの原価が80%ということです。
一方、B店は、500万円(原価)÷1000万円(売上高)で0.5、つまり50%となり、A店よりも原価にお金をかけていない、ということになります。 これがもし、売上高が1000万円で揃っていなくても、比率は変わりません。
※もしもA店の売上高が2000万円の場合:1600万円(原価)÷2000万円(売上高=80% 2つ目の「販売費・一般管理費 ÷ 売上高は、売上高全体のうち販売費・一般管理費が占める比率を意味し、一般的に販管費率と呼ばれる指標、 3つ目の「営業利益 ÷ 売上高は、売上高全体のうち営業利益が占める比率を意味し、一般的に営業利益率と呼ばれる指標となります。
販管費率と営業利益率として、先ほどのラーメン屋2店を比較します。
A店の販管費率:10%(100万円÷1000万円)
B店の販管費率:35%(350万円÷1000万円)
→B店はA店より、販売費・一般管理費にお金をかけている
A店の営業利益率:10%
B店の営業利益率:20%
→利益面ではBのほうが優れていそう
前のパラグラフで見えた特徴がちゃんと出ているのがお分かりでしょうか。
比率を使えば、規模が違う会社も比較できる、という話でした。
ここで見えるのはあくまで会社の儲けの構造を推理する「手がかり」に過ぎません。
A店の原価率が80%であることは、「とことん良い素材にこだわった」結果なのか、「良いものを安く仕入れなかった」結果なのか、は分かりません。
同じようにB店の販管費が高いのは「高い給料を払って従業員に報いている」結果なのか、「社長が経費を無駄遣いしているだけ」の結果なのかまでは数値からは分かりません。
名探偵が、殺人現場のわずかな手がかりで「殺人犯がどういう動機でどういう行動を起こしたのか」を推理していくように、会社分析のプロ(投資家など)は「会社がこういうビジネス構造でこういう努力をした結果、こういう儲けが出ている」、というストーリーを推理していく(=仮説を立てていく)のです。 この会社の儲けの構造を推理する手がかりが損益計算書には眠っています。
■色んな事業が混じっている企業を見る場合は要注意
ただし、実際に比較する際には実務上の留意点がいくつかあります。
その1つが色んな事業を手掛けているケースです。 毎年の利益を安定させるため、色んな事業を手掛けている会社が少なくありません。
先の例で言えば、ラーメン屋さんだけでなく、クリーニング屋さんや美容室も経営しているようなイメージです。
そうなると、ラーメン屋さんとしての特徴や、クリーニング屋さんとしての特徴がごちゃまぜになった比率となるため、分析で惑わされます。
この場合、どんなビジネスの束で売上高が成り立っているのか、という点に注意が必要です。
ビジネスの束が8割がたラーメン屋さんで残り2割がその他事業といった感じなのか、よくもわるくも3つがバランスの取れた形なのかなどを考慮して比率を見る必要があります。
このようなビジネスの束をひも解いて、ビジネスごとの状況を「セグメント情報」として開示している会社であれば、そうした情報も参考にします。
会社の分析を始めたての就職活動生の方などは、まず同業他社同士を比べて、それぞれの会社の特徴がないか見てみることをお勧めします。
業種が同じであれば、概ね同じような損益計算書の科目が並ぶからです。
ただし、大企業になればなるほど、事業の束が複雑にまとまり、読み解きづらくなっていたりしますが。。。
最後に、損益計算書に限った話ではありませんが、財務諸表から見えることが常に正しいわけではない、ということも知っておく必要があります。
そもそも、入ってくるお金や出ていくお金を本来よりも多く計上したりする、計上すべき金額を計上しない、など書類をつくる仮定で不正を働いているケースも絶対にないとは言えません。
また、そうした不正行為ではないものの、1年間に入ったお金と出て行ったお金を整理しているという損益計算書の特性上、操作が比較的容易、という側面もあるのです。
具体的には、1月から12月までの1年間の成績をまとめて発表している会社の場合、12月31日の売上や経費を、翌年の1月の売上としてズラしたり、といった感じです
疑いだしたらキリがない、という話ではありますが、信じすぎてもダメということは覚えておいて損はありません。
今日のところはここまで。