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社会人として知っておきたい基礎知識:財務諸表

2021年6月30日

新聞社にいた15年ほど前、企業取材を担う経済部の上司から、大変なスパルタ志向で指導を受けていました。

そのころの教えが今もなお、自分の身を助けていますが、その一つが「財務」に関する知識。

会社がどのような状態なのかを示す様々な数字たちを、どのように解釈して記事にするのかを徹底的に叩きこまれたものです。

会社の状態を知るっていうのは、経済記者だけでなく、就職活動をしている学生や一般の社会人も知っておいて損はないと思うんですよね。

そこで、多少の誤解を恐れずに徹底的に分かりやすく、数字から財務を見るポイントを解説したいと思います。

 

■なぜ財務数値を詰め込んだ財務諸表を会社は公開するのか

財務諸表とは、会社の持ち物や財産、お金を稼ぐ力から、お金の出入りまで、会社の状況が分かる情報を詰め込んだ書類になります。

この財務諸表は、主だったものとして、 会社の持ち物をお金に換算して表す「貸借対照表」、 会社の事業の成績表ともいえる「損益計算書」、 会社のお金の出入りを記した「キャッシュフロー計算書」 があります。 それぞれが何を意味しているかは後ほど詳しく説明します。

有名な会社や規模の大きい会社は、この財務諸表をウェブサイトで公開しています。 なんでわざわざこんな書類を公開しているんでしょうか?

「法律で公開しないと罰せられるから」という会社も多いのが実情ですが、その背景には、同じフォーマットで会社を比較できるようにすることで、会社に関わる人を安心させたい、という意図があります。

ここでいう会社に関わる人とは、その会社に対してお金を提供している銀行や株主、その会社の商品やサービスを購入するお客様、その会社に商品やサービスを納めている取引先、そしてその会社に勤めている従業員などです。

健康を顧みない不摂生の人がいきなりくも膜下出血で倒れるように、会社も突然に経営危機に陥ることがあります。 経営危機になれば、お金を出している銀行はそのお金を回収することができなくなりますし、お客様は代金を支払ったのに商品が届かない、取引先は納入商品の代金を支払ってもらえない、従業員は給料がもらえない、など不都合が起きてしまいます。

会社の視点に立つと「うちは大丈夫だから安心してね」という意味を込めて、財務諸表を公に開示している、というわけです。

 

■会社の持ち物をお金に替えてみる「貸借対照表」

財務諸表はある意味で、個人に例えれば、定期健康診断結果や定期試験の成績表、預金通帳のようなものの集合体であることをお伝えしました。

最初に解説する「貸借対照表」とは、会社の持ち物・財産をお金に換算してまとめたものです。

貸借対照表という名称は、貸方(通常左)という表と借方(通常右)という表の2種類の表を比較対象して示すところからきています。

なぜ2種類の表があるか、というと、 借方には、会社が事業で使う財産や持ち物とそれをお金に換算した数値が示され、 貸方には、会社の持ち物を所持・維持するためにどこからどのように調達しているか、が示されています。

借方で示した財産・持ち物のためのお金をどのように調達したのかが貸方で示されるため、借方と貸方は常にイコールとなることから、英語ではBalance Sheetと呼ばれます。

貸方は、お金の調達先を示している、と書きましたが、調達方法として「誰かから借りる」「自分で用意する」に分けられ、表の区分にもそれが表れています。

誰か(主に銀行)から借りたお金のことを「負債」と呼びます。 借りただけですから返さないといけません。

自分で用意したお金のことを「資本」と呼びます。 ここでいう“自分”とは、会社のオーナーである株主も含めています。

だから、会社を立ち上げるときにオーナーが出したお金(出資金)はこのカテゴリーに入ります。

お金の出元は、誰かから借りたお金よりも自分のお金で事業をしていたほうが危険度が一般的に小さそうですよね?

負債と資本を足したものを「総資産」と呼び、この総資産に対する自己資本の割合は「自己資本比率」と呼ばれ、経営の健全性を示すのによく使われます。

 

■会社版の家計簿で事業成績を示す「損益計算書」

次に解説する「損益計算書」とは、会社版の家計簿のようなものです。

家計簿って、毎月の入ってくるお金(給与など)と出ていくお金(電気代、食費など)をまとめますよね?

損益計算書でいう、「損」とは使って出ていったものを示し、「益」とは事業で稼いだり、利息をもらったりして入ってきたものを示し、これを計算してまとめるわけです。

家計簿だと、入ったお金と出たお金だけを大括りにまとめるだけかもしれませんが、損益計算書ではもう少し事業活動の成績が分かるようにまとめています。

会社の成績は色々な見方・モノサシがあるのは確かですが、損益計算書では利益を生み出すことを成績のモノサシとしています。

ここでいう、利益とは会社が事業として販売した商品・サービスの合計額(売上高)から販売に関わる費用を差し引いた分のいわゆる稼ぎを意味します。

販売に関わる費用は事業活動にどれだけ必要不可欠かで内容によって差があります。

例えば、ラーメン店で言えば、お店に客を呼び込むための宣伝費とラーメンをつくるための原材料(麺や調味料)を比べれば、原材料のほうが必要不可欠ですよね。

販売する商品やサービスを生み出すための費用を原価と呼び、売上高から原価を引いたものを、粗々の利益として「粗利益」としています。

粗利益から、商品・サービスをより多くの人に届けるための費用、つまり営業活動の費用を差し引いて、「営業利益」としています。

このように、大元の売上高から、カテゴリー分けした費用を引くことで、1年間でどのような事業を営んで利益を生み出したのか、が見えるようにしているわけです。

その点で、事業活動の成績表と見ることもでき、重要な財務書類の1つと言えます。

このまとめ方は日本方式もあれば、アメリカ方式もあり、それ以外の方式もあり、それぞれ区分けが異なりますが、この話は専門的になるため、割愛します。

 

■お金の出入りが分かる預金通帳のような「キャッシュフロー計算書」

最後に紹介するのは「キャッシュフロー計算書」です。

多くの人が「キャッシュフローって何?」「現金と何が違うの?」という部分でつまづきます。

ここでいうキャッシュフローとは、「お金(Cash)の流れ(Flow)」を意味し、キャッシュフロー計算書とは、一定期間の間にどのくらいのお金を得たり、使ったりして、今どれくらいのお金があるのか、を示したものです。

これもある意味で家計簿と同じ意味合いです。 僕が初めてキャッシュフロー計算書を知った時、最初に説明した貸借対照表では「現金及び預金」という科目があることから、「どれくらいお金を持っているか、は貸借対照表で充分じゃないの?」って思いました。

そもそもこのキャッシュフロー計算書は今から20年前から株式上場している大企業で開示が始まりました。

そこには貸借対照表と損益計算書から見える会社の実態に限界があったわけです。

損益計算書からは会社が生み出す「利益」」が分かりますが、この利益は手元に丸々お金としてあるとは限りません。 例えば、モノを売ってお客様に請求書を出したら「売上」になって、売上高に計上されますが、実際にお金が入ってくるのは2か月先だったり、分割払いだったりして、計上月と入金時期は必ずしも一致しません。

また、 建設な建物や設備など時間の経過とともに劣化するものに対して投資をした場合は、1年間でドーンと経費処理せず、その費用を5年や10年など複数年にわたって会計処理します。

これを減価償却と言います。

そうなると、仮に5億円の工場を10年間にわたって会計処理した場合、1年目は5億円の投資をした分、お金が出て、手元資金に余裕がありませんが、損益計算書では5千万円しか経費処理しないため、利益が出ていても、資金繰りがキツイような状況もありえます。

利益が黒字なのに会社倒産、という意味不明な状況が起きるのもこれが一因と言われます。

実際のお金の流れを追えるようにしたのが、キャッシュフロー計算書という書類の存在意義です。

ここまで説明してきた貸借対照表と損益計算書にキャッシュフロー計算書を合わせて財務3表と呼ばれ、会社のお金の状況(財政状態)を知る上で重要な資料とされています。

 

■財務数値で測れないものを見ようとする動き

ここまで、会社の持ち物・資産、ビジネスでの稼ぎ・ビジネスの原料などをお金に換算して見える化した財務諸表をもってしても、「会社の状態がまだ理解しきれない」という流れが強まっています。

例えば、エース級の従業員の存在や従業員教育の浸透・練度など従業員に関する部分。

ビジネスによっては、1人で年間に1億円を売り上げる人もいる一方で、1千万を売り上げるのがやっと、といったエース級人材がどれだけいるかが会社経営を左右するようなことがあります。

また、事業運営に必要な教育が従業員に行きわたっているのかどうかも、安定した経営を図る上で大事です。

「ビジネスは人だ!」とよく言われる割には、ここまで述べてきた財務諸表には人に関する内容が盛り込まれていないのです。 (人数ですら!)

従業員に関する部分に加え、お客様との関係性についても、財務諸表では考慮されていません。

これも例を出すと、お客様と一口に言っても、長年取引を続けて、半ばその会社のファンとなっているような客もいれば、最近取引を始めたばかりという客もいますし、取引量の厚みも違います。

このようなお客様とのつながりは、事業を継続していく上で大事な要素です。

そこで、飲食店であれば「お客様一人当たりの売上高」であったり、保険会社であれば「(お客様の)解約率」など会社が自主的に情報を開示しています。

最近では、「地球環境に負荷をかけるような事業(石油・石炭)がメインの会社はいずれ世界で規制されるから投資対象にしない」、という投資家も出てきていて、環境という観点も重要性が増してきています。

こうした財務的な部分以外の要素に注目する動きはESG(環境・社会・ガバナンス)とも言われ、僕の専門分野の1つになってきますが、今回は触れる程度にとどめます。

今回の記事を通じて、「財務ってとっつきにくかったけど、さわりは分かった」「就活で会社を比較するモノサシにしたい」と思ってもらえたらうれしいです。 財務3表の具体的な使い方やポイントは別記事で詳しく書いていこうと思います。

今日のところはここまで。

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